群青の隘路に

喚き散らかす

ショートパンツで夜道を歩く

 いつのことだったかもう具体的に覚えていないのですが、それはおそらく夏の頃、私が大学の夏季休暇を楽しんでいた時分のことだったと思います。ある日帰宅の遅くなった私は、その足で母の部屋を訪ね「ただいま」と言いました。すると母は私の姿を見て、少し困ったような顔をして返事をしました。

「遅い時間になるのにそんな恰好で出かけてたの? だめよ」

 その時の私は、ショートパンツに薄いストッキングをあわせて履いていました。

 

 突然ですが私は背が高い方です。168cmあります。モデルばりにめちゃくちゃ高いわけではないけれど、周りの女友達の中ではかなり大きいと認識をされる背丈に育ちました。美脚でも何でもないのですが、背がある分だけ脚の長さもそれなりです。だから長身を活かせる服装は好きだし、ミニスカートやショートパンツも気温によりますが積極的に履きます。それに7cmくらいのハイヒールをあわせることもしょっちゅうでした。すらりとして見えるのが格好いいと思うから、あえて踵の高い靴を履く。以前後輩女子に「どうして背が高いのにヒールを履くんですか?」と聞かれたことがありますが、別に私は「背を高くしたくてヒールを履く」のではありません。脚が綺麗に見えるから、スタイルよく見えるから、ファッションとして格好いいと思うから。だから私は疲れることを知りながらハイヒールを履きます。まあ単純に私の性癖として、ヒールの高い靴が好きというのもあるのだけれど。

 だからその日も(上の服は覚えていないけれど、多分シフォンの半袖ブラウスとかだったと思います)、私はそうした格好で遊びに出かけていました。高いウェッジソールのサンダルを履いて、ショートパンツで脚を出して、意気揚々と都会へ繰り出してきたのです。友達と遊びに行っていたのか、一人で観劇しに行っていたのか、細かいことは覚えていません。帰りが遅くなったのは誤算ではありましたが、それでもおおむね楽しい思いをして、うきうきしながら帰ってきた。そして母に心配された。母の感情はもっともです。若い女の子が、それも自分の実の娘が、露出の高い恰好で夜遅くに帰ってきたら気にもします。近頃は恐ろしいニュースも報道されている。私の母はその辺りの恐怖心がとりわけ強い人でした。だから私は母の苦言を否定しないし、心配してくれたことは大切にしようと思いました。向けられた愛情を蔑ろにすることだけはしないとも。

 けれど別のところで、疑問に思うこともありました。母に対する個人的なものではなくて、母が持つに至ったおそらく普遍的な危機意識に対して。

「何故性犯罪者に怯えて、女がオシャレを自粛しなければいけないのだろう?」

 

 一定数見かける、「何で女ってああいうファッションするんだろうな。絶対男ウケ悪いのにwww」とかのたまう男がめちゃくちゃ嫌いです。どうして女性が好きなファッションに身を包むことを、「男ウケを狙っている」ことを前提にして言われなければならないのだろう。その言説が目に触れる度に酷く苛立つし、「百歩譲ってそれが男ウケを狙ってやっていることだとしても、お前だけは絶対にターゲットにしない。しね!」と思います。おとといきやがれすっとこどっこい。

 髪型、服装、化粧、香水、ネイル、エトセトラ。それらすべては「自分が幸せな気持ちになるために」やっていることです。というか少なくとも私はそう。センスが壊滅的にダサいのでぶれていることは多々あるのだけれど、結果はどうあれ、「オシャレに勤しむ自分、何かオンナノコっぽいことしてる自分! 見目に気を遣うことで少しは社会的に見るに堪える姿になってる自分!」が楽しくてやっています。変身願望が満たされているというか。あと大学生以降になったら「化粧はエチケット」とか言われる社会通念もあるしな。就活の時期になったら嫌でもメイクしなきゃいけないし。でも単純に可愛いお洋服を見たり、それを着られるようにお化粧することって楽しくないか? 実際に可愛くなっているかとか、その服が似合っているかとかはノーコメントノットフォーミーですけれど、そうやっててんやわんややっている時間はとても楽しい。友達の化粧のやり方とか見ているのも新鮮でわくわくするし、そういうのの知識や情報に明るい子にはぜひ顔をいじってほしいとも思う。

 中には「気になるカレとデートだから、気合い入れてオシャレしちゃうぞ!」なんて女性もいるかもしれない。でもそれはあくまで狙っている特定の相手がいるからであり、不特定多数の男に媚びる為にオシャレをする女というのはなかなかいないんじゃないかなと思う。まあ中には不特定多数にウケるように服装を選んでいる人もいるのかもしれないけれど、それに関しても私は善悪を断じる気はさらさらありません。オシャレは自己満足です。誰を狙っているのか、はたまた誰のことも狙っていないのか、全部ひっくるめて自己満足です。それを全て「男の為」と決めつけて、その上で「空回りしてるよなwww」とか笑い者にする奴はもれなく控えめに言ってしんでほしい。男の代表みたいなツラして見下げやがって。誰がお前の為にオシャレしてると言った。自惚れんなよ。

 その上で、先ほどの話題に戻ります。性犯罪者(痴漢とか露出狂とか強姦魔とかストーカーとか全部ひっくるめて)に遭わないように、「狙われるような格好は控える」。なるほど、確かに予防策としてはありなのかもしれない。相手はどう足掻いても出会う時には出会ってしまうイレギュラークソ野郎ですから、少しでも狙われる確率を下げるべきだという理屈も分かります。女が露出の高い恰好をして歩いていると、そういうイレギュラーゴミ野郎の下半身に刺激を与えてしまうから。「お前がそんな挑発的な格好してるからその気になっちまったんだ! お前らから、女から誘ってきてるんだろうが! 俺は悪くない!」って。

 しねよ。

 大事なことだからもう一度言います。しねよ。繰り返しますけれど、誰がお前の為にオシャレしてると言った。誰がお前の為に、露出の高い服を着てると言った。思い上がるのも大概にしろ。道行く女の子を見て劣情を催すのは好きにしたらいいと思います。私だって見知らぬ他人の股間にまでケチつけるほど狭量じゃありません。だけどそれを本人にぶつけるのはやめろ。家帰って一人で勝手に抜いてろ。私がショートパンツを履くのは私の為であって、間違ってもお前を欲情させる為ではない。お前の下半身のことは知らない。私の知らないところで勝手に完結している分には干渉しないけれど、指の一本でも故意に接触するならそれは許しておけない。……とまあそんな不満が浮かんでしまって、釈然としないなあ、とあの夏の日に思ったのでした。

 とはいえ実際問題、イレギュラークズ野郎の被害に遭わない為には、人気のない夜道はどんな恰好であれ、露出の高い恰好なら尚更、気を付けて然るべきなのだろうなと思います。心底気に食わないけれど、私だって別にイレギュラーチンカス野郎に襲われたいわけではありません。ていうか「女から誘ってきたんだろ」って文面、自分で書いてて涙出るほど笑いました。脳みそまで海綿体か? 固くなってんじゃねえよ血抜くか? しねよ。

 

 ショートパンツで夜道を歩くのに何の忌憚もない、平和な世界になるといいですね。よしなしごと。